はじめに
読書は多くの人にとって、新たな知識を身に付け、感受性を豊かにする手段として知られています。しかし、読書には多くのメリットがある一方で、デメリットも無視できません。本記事では、科学的な研究にも基づきながら、読書が私たちの生活や心身に与える影響について、深掘りしていきます。ここでは、読書のメリットとデメリットをそれぞれ3つずつ取り上げ、その影響をより具体的に考察します。
読書のメリット
メリット1:認知機能の向上
読書は脳の様々な領域を刺激し、認知機能を高める効果があると言われています。特に、フィクションの読書は「認知的共感力」の発達に寄与することがわかっています。認知的共感力とは、他者の感情や立場を理解し、共感する力のことです。いわゆる感情移入です。フィクションを読むことで、私たちは登場人物の視点に立ち、その感情や行動を追体験することができ、これにより社会的なコミュニケーション能力が向上すると考えられます。
研究によると、読書が脳の前頭前野や海馬などの認知機能に関連する部分を刺激し、問題解決能力や記憶力の向上につながることが確認されています。例えば、Marらの研究では、「フィクションを読むことが他者理解を高める」と示されています。
「フィクションを読んでいる間、脳は物語の進展と登場人物の内面を理解するために高度な認知処理を行う」1
Bookworms versus nerds: Exposure to fiction versus non-fiction, divergent associations with social ability, and the simulation of fictional social worlds | Mar, R. A., et al.
さらに、Wilsonらの研究は、読書が加齢による認知機能の低下を遅らせる可能性があることを示唆しており、これは特に認知症の予防に役立つとされています。
「読書などの知的活動は、長期的に脳を保護する効果がある」2
Cognitive Activity and the Cognitive Morbidity of Alzheimer’s Disease | Wilson, R. S., et al.
このように、読書をすることで脳の様々な領域が刺激され、認知機能を向上させることが期待されます。
メリット2:ストレス軽減
現代社会においてストレスは避けられないものですが、読書はそのストレス解消に効果的な方法の一つです。イギリスのサセックス大学での研究によれば、たった6分間の読書でストレスが最大68%も軽減されることが明らかになっています。このストレス軽減効果は、音楽を聴いたり、散歩をするよりも高いものです。
特にフィクションを読むことで、異世界に没入する体験が現実の悩みやストレスから一時的に解放してくれ、精神的な安定をもたらします。この「没入感」こそが、他のリラクゼーション手段よりも効果的な理由の一つと考えます。
スペンサー・ジョンソン氏の著書「プレゼント」にも、「幸せになりたければ、今目の前で起こっていることに集中すべき」という趣旨のことが書かれていて、これには個人的にかなり共感をしました。
自分がこれまで楽しく熱中してきた趣味というのは、レゴブロック、アイドルライブ、旅行、読書など、どれも勉強や仕事などの小さな悩みを忘れ、100%没入できるコンテンツだったのです。
「プレゼント」の内容が気になる方は、こちらから詳細を確認してみてください。
世界的名著である「チーズはどこへ消えた?」シリーズはとても読みやすく、入門書にも悪くないと思います。
メリット3:語彙力や表現力の向上
読書は、新しい単語や表現に触れることで、語彙力や表現力が自然に向上していきます。特に文学作品やエッセイを読むことは、日常的には使われない高度な語彙や洗練された表現に触れる機会となり、コミュニケーション能力を向上させるだけでなく、文章作成能力の向上にもつながります。
StanovichとCunninghamの研究によると、読書を定期的に行う人は、語彙テストで高得点を取る傾向があることが示されています。
「読書が単語認知において極めて重要な役割を果たし、それが学業や社会的成功に直結する」3
What Reading Does for the Mind | Stanovich, K. E., & Cunningham, A. E.
このように、読書を通して語彙力や表現力を向上させることは、学業や仕事の成績にも良い影響を与えるため、読書は単に楽しむだけでなく、学びのツールとしても非常に有効であると考えられます。
読書のメリットまとめ
ここまで、過去の研究なども引用しながら、読書をすることのメリットについて考えてきました。
ここからは、読書をすることによるデメリットについて考えていきます。
読書のデメリット
デメリット1:視力への影響
長時間の読書は、視力に悪影響を与える可能性があります。例えば、近い距離で長時間読書をしていれば、近視が進行してしまうことは容易に想像できるでしょう。また、読書に集中することで瞬きの回数が減り、ドライアイを引き起こす可能性もあります。特にデジタルデバイスを使用した読書では「デジタルアイストレイン(眼精疲労)」を引き起こす可能性もあり、目の疲れや乾燥感、さらには視力低下の原因となることがあります。現代では、紙の本ではなくスマートフォンやタブレットでの読書が一般的になりつつありますが、これが目に与える影響は深刻です。
SheppardとWolffsohnの研究では、長時間スクリーンを見続けることで目の筋肉が緊張し、目の疲労が増すことが示されています。
「デジタルデバイスを使って長時間読書をすることで、眼精疲労や視力の低下が顕著に現れる」4
Digital Eye Strain: Prevalence, Measurement and Amelioration | Sheppard, A. L., & Wolffsohn, J. S.
ただし、これは読書に限った話ではなく、スマートフォンやゲーム、PCでの動画視聴などでも同じことが言えます。
読書の際には、適切な距離を保ったり、定期的に休憩を取ったりするなど、目を守るための行動も心掛けましょう。
デメリット2:情報の偏り
読書の内容が特定のジャンルや視点に偏っていると、個人の価値観が偏るリスクがあります。例えば、特定の思想や政治的な立場を支持する書籍ばかりを読んでいると、他者の異なる意見を受け入れる柔軟性が低下し、バランスの取れた判断が難しくなることがあります。
Lazerらの研究では、読書による情報の偏りがフィルターを形成し、自己の視野を狭める可能性があることを指摘しています。
「特定のテーマに関する情報のみを受け入れることで、バランスの取れた判断が難しくなる」5
The Science of Fake News | Lazer, D., et al.
特に近年はSNSの普及に伴い、無駄にリアリティが高いフェイクニュースなどを目にすることも多いと思います。
そんな時に、偏った視点で物事を見てしまうと、自分に都合の良い情報だけを受け入れるなど、情報の真偽の判断に支障をきたす可能性もあります。
これを防ぐためには、幅広いジャンルや異なる視点を持つ書籍に満遍なく触れることがとても重要です。
デメリット3:孤独感の増加
読書は主に一人で行う活動であり、過度に没頭することで他者との交流が減ることが懸念されます。特に、フィクションの世界に入り込みすぎてしまうと、現実世界の人間関係や社会的なつながりを疎かにしてしまう可能性があります。
Dunbarの「社会的脳仮説」では、社会的なネットワークの維持には頻繁な交流が必要であるとされており、一人の時間を過度に持つことは孤独感を引き起こす可能性があります。
「読書に没頭しすぎることで、他者との接触頻度が減り、孤独感が増大するリスクがある」6
The Social Brain Hypothesis | Dunbar, R. I. M.
読書に没頭するあまり、社会から孤立してしまうのは本末転倒とも言えるでしょう。
読書はあくまで「学習のためのツール」であったり、「ストレス軽減のための趣味」であったり、生活の一部として向き合うべきだと個人的には考えています。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とも言うように、読書だけしていれば良いという訳ではなく、仕事や日々の生活の息抜きとして組み込むべきではないでしょうか。
読書のデメリットまとめ
ここまで、読書をすることで懸念されるデメリットについて考えてきました。
最後に、これまでの内容をまとめます。
まとめ
読書は認知機能の向上やストレス軽減、語彙力向上など多くのメリットがある一方で、視力への影響や情報の偏り、孤独感の増大といったデメリットも存在します。重要なのは、これらのメリットを最大限に活かしながら、デメリットを最小限に抑えるために、各人に合ったバランスの取れた読書習慣を維持することです。適切な休憩や環境を整えながら、自身にとって有益な読書体験を楽しむことで、読書の恩恵を最大限に活かしましょう。
このブログが、皆様の良き読書習慣を確立するための一助となれれば幸いです。
【参考文献】
- Mar, R. A., et al. (2006). “Bookworms Versus Nerds: Exposure to Fiction Versus Non-fiction, Divergent Associations with Social Ability, and the Simulation of Fictional Social Worlds”. Journal of Research in Personality, 40(5), 694-712. ↩︎
- Wilson, R. S., et al. (2013). “Cognitive Activity and the Cognitive Morbidity of Alzheimer’s Disease”. JAMA Neurology, 70(3), 287-292. ↩︎
- Stanovich, K. E., & Cunningham, A. E. (1992). “What Reading Does for the Mind”. Journal of Direct Instruction, 1(2), 137-149. ↩︎
- Sheppard, A. L., & Wolffsohn, J. S. (2018). “Digital Eye Strain: Prevalence, Measurement and Amelioration”. BMJ Open Ophthalmology, 3(1), e000146. ↩︎
- Lazer, D., et al. (2018). “The Science of Fake News”. Science, 359(6380), 1094-1096. ↩︎
- Dunbar, R. I. M. (1998). “The Social Brain Hypothesis”. Evolutionary Anthropology, 6(5), 178-190. ↩︎