現代社会では、多くの人が日常的にデジタルデバイスに囲まれています。スマートフォンやパソコン、タブレットなど、仕事からプライベートまでほぼすべての場面で使用されているデバイスは便利な反面、過剰な使用が心身に悪影響を与えることも知られています。この状況に対処するために、「デジタルデトックス」という概念が注目を集めていますが、デジタルデバイスを完全に使わない選択肢が常に最適とは限りません。
そんな中、電子書籍が一つの「中間的な解決策」として注目されています。デジタルデバイスの利便性を享受しながらも、心身に優しい形で活用する方法として、電子書籍を用いた読書がどのように役立つのか、今回はその点に焦点を当てて考察していきます。
デジタルデバイスと健康への影響
まず、デジタルデバイスの長時間使用が健康に及ぼす影響について触れておきます。複数の研究が、長時間にわたるスクリーンタイムが、眼精疲労、睡眠障害、ストレスの増加など、身体的および精神的な問題を引き起こす可能性を指摘しています *1。特に、スマートフォンやパソコンを使用した長時間の作業は、ブルーライトの影響によりメラトニンの分泌を抑制し、睡眠の質を低下させることが示されています *2。
*1: American Academy of Ophthalmology, “Computers, Digital Devices, and Eye Strain”
https://www.aao.org/eye-health/tips-prevention/computer-usage
*2: American Academy of Ophthalmology, “Digital Devices and Your Eyes”
https://www.aao.org/eye-health/tips-prevention/digital-devices-your-eyes
また、SNSやニュースフィードの常時アクセス可能な状態は、情報過多を引き起こし、集中力の低下やストレスの増加を招くこともあります。このような背景から、多くの人がデジタルデバイスから離れる「デジタルデトックス」の必要性を感じ始めています。
電子書籍がもたらす心身へのポジティブな効果
ここで、「デジタルデトックス」を完全にデジタル機器を排除することと考えるのではなく、適切な使い方を意識することで、デバイスと調和した生活を送る方法を考えます。特に、電子書籍を使った読書は、心身に良い影響を与えるデジタル活動として注目されます。
1. 情報過多からの解放
まず、情報過多は受け手の処理能力を超える情報量が与えられた際に生じる現象とされ、仕事や日常生活における意思決定の効率を低下させる要因として知られています。過剰な情報量により、集中力の低下やストレスの増加、エラーの発生などが引き起こされることが、複数の研究で確認されています *3。
特に、テクノストレスと呼ばれる、ICT(情報通信技術)に起因するストレス要因の一部として情報過多が扱われ、対策としてはデジタルリテラシーの向上や情報のフィルタリング、シンプルなデザインのインターフェースの導入などが有効とされています。また、デジタルデバイスの使用に伴う認知的負担の軽減を目指し、システム設計やICT活用法の工夫も推奨されています *4。
*3: Lehman, A. & Miller, S. J. (2020). “A Theoretical Conversation about Responses to Information Overload” MDPI,
https://www.mdpi.com/2078-2489/11/8/379
*4: Arnold, M. & Goldschmitt, M. & Rigotti, T. (2023). “Dealing with Information Overload: A Comprehensive Review” MDPI, https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2023.1122200/full
2. ブルーライトの影響の軽減
電子書籍リーダーの多くは、専用の電子インク技術(E Ink)を使用しており、一般的なスマートフォンやタブレットとは異なり、ブルーライトをほとんど発しません。この技術により、長時間の読書でも目の疲れが軽減されるため、夜間の読書にも最適です。例えば、Kindle Paperwhiteなどは夜間モードを備えており、さらなる目の負担軽減が期待できます。
3. ストレス軽減とメンタルヘルスの向上
読書そのものには、ストレスを軽減する効果があることが、心理学的な研究からも明らかにされています。イギリスのサセックス大学の研究によれば、たった6分間の読書でもストレスレベルを最大68%軽減できるというデータが示されています。また、フィクションや物語の世界に没入することは、現実のストレスや不安を一時的に忘れる手段としても有効です。
電子書籍を活用した読書は、紙の本と同様にこの効果を享受できます。特に、電子書籍ならではの持ち運びの手軽さや、複数の本を一度に持ち歩ける利便性により、ストレス解消のための「手軽な」読書体験が可能となります。
デジタルデトックスとしての電子書籍の活用方法
デジタルデトックスの一環として、電子書籍をどのように取り入れるべきか、いくつかの具体的な方法を提案します。
1. 通知をオフにする
まず、電子書籍を読む際には、スマートフォンやタブレットで読んでいる場合でも、すべての通知をオフにすることが重要です。これにより、デジタルの利便性を享受しながらも、余計な情報に惑わされることなく、読書に集中することができます。
2. 読書専用のデバイスを使う
スマートフォンやタブレットと異なり、KindleやKoboといった電子書籍リーダーは、読書に特化したデバイスであり、他のアプリや通知に邪魔されることがありません。これにより、デバイスを通じてありながらも、読書だけに集中する環境を整えることができます。
3. 自然の中で読書をする
電子書籍リーダーの軽さやバッテリーの長持ちという特徴を活かし、外出先や自然の中での読書も一つの方法です。自然の中でのリラックスした環境と、電子書籍による没入体験は、デジタルデトックス効果をさらに高めることができるでしょう。
電子書籍の限界と紙の本とのバランス
もちろん、電子書籍がすべての人にとって最適な解決策というわけではありません。紙の本には、独自の手触りや質感、ページをめくる楽しさがあり、物理的な存在感が心地よいと感じる人も多いでしょう。また、長時間の電子書籍読書でも目の疲れが気になるという場合は、紙の本との併用を検討してみるのも一つの選択肢です。
結論
デジタル社会に生きる私たちにとって、完全にデバイスから離れるのは現実的ではないかもしれません。しかし、デジタルデトックスとして電子書籍を上手に活用することで、心身の健康を守りながらも、デジタル技術の恩恵を享受することが可能です。電子書籍を通じて、ストレスを軽減し、目を保護し、情報過多から解放される時間を作り出すことで、よりバランスの取れたライフスタイルを実現しましょう。